スピリチャルペインとそのケア その理論と実際

shuichifujii2017-06-30

2017年6月29日
講演者:山崎章郎(やまざき ふみお)先生
(在宅緩和ケア充実診療所 ケアタウン小平クリニック)
(1991年から14年 桜町病院のホスピス その後、在宅緩和医療

以下、講演内容を藤井がメモしつつ、自分の意見を書き加えたものです。


●死そのものより、死に直面していくプロセスが課題。
スピリチャルペインのなりたちについて考えたい。

スピリチャルペインとは・・・
・人生の意味、目的の喪失
・衰弱による活動能力の低下や、依存の増大
・自己や人生に対するコントロール感の喪失や不確実性
・家族や周囲への負担(家族に迷惑をかけられない)
・運命に対する不合理や不公平感
(意外と平然と受け止める人もいる。たぶんそうなると思っていた、という人もいる。)

・自己や人生に対する満足感や平安の喪失
・過去の出来事に対する後悔・恥・罪の意識
・孤独、希望のなさ、あるいは死への不安

といった様々な苦しみであると言われている。

「スピリチャルペインとは自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛」と定義できる。

しかし、これは間違っていないと思うが、これは「死に直面した人だけか?」
もっと違う定義が出来るんじゃないか。

「スピリチャルペインとは、その状況における
自己のありようが肯定できない状態から生じる苦痛」
そう定義するほうがより普遍的ではないか。


★WHOの緩和ケアの定義 2002年の定義が基本概念。

癌の痛みを取ることは、緩和ケアの一要素でしかない。
痛みが取れたとしても、人生の問題は解決しない。
緩和ケアと、緩和医療は違う。

1.身体的苦痛 体があるから感じる苦痛
2.社会的苦痛 仕事、経済、家族の崩壊などがあるから、感じる苦痛
3.心理的苦痛 心があるから、感じる苦痛
4.スピリチャルペイン スピリチャリティがあるから

スピリチャルペインを引き起こす「スピリチャリティー」とはなにか?

「自己のあり様」を受け入れられない。

その自己とはなにか。アイデンテティーとは。

他者との関係の中で、自己を認識する。

「自己は他者との関係がなければ存在しない」

「生きる意味がない。早く死にたい」という思いも、その時の他者との関係性において、言わせている

「スピリチャルペインとは、その状況に置ける自己と他者との関係性の有りようが肯定できない状態から生じる苦痛」

他者とは・・・

誕生から現在に至るまで関係した、あるいは関係している、さらには関係するかもしれない

1.出会ってきた人間
2.思想、宗教、芸術、環境、自然

様々な他者との関係によって、自己を作り上げている。
成長とともに、他者との関係も変わっていく。


●終末期には、その関係性の見直しが必要になっていく。

スピリチャルペインがある人は、今の他者との関係性、有りようが受け入れられない、ゆえに他者との関係性を見直していく必要がある。

今の状況の中で、その状況を受け入れていける、他者との関係性の見直しが始まっていく。

困難な状況に置ける自己を肯定し得る、他者。それが真によりどころとなる他者。

「沈黙」の映画。命をかけても、自己の存在を肯定する存在がいる強さ。


●スピリチャルペインとは、その状況に置ける、真によりどころとなる他者の不在によって生じる状態といえる。


■(藤井の意見)真によりどころとならないものに、しがみついている状態が、スピリチャルペインということもできるか。

■(藤井の意見)自己肯定の根拠としての、絶対他者との関係性

■(藤井の意見)死を前にして、今まで自分を支えてきた、他者との関係を見直さなければならない状況に引き込まれることで、本当に自己を肯定してくれる、絶対他者との出会いへと導かれていく。



●人間の本質。この世にいる限り、この世にいることを肯定しようとする特性がある。

●スピリチャルケアとは、真によりどころとなる他者を見いだすことを支援すること

●真によりどころとなる他者として、神仏、宗教、信仰を持つ人々。

●そのような宗教を持たない人の場合はどうするか。

自分が受け入れられない現実を変えられなければ、「思い」を動かすしかない。
・語りつくす。自己の思いが明確になる。苦しい状況に対する思いを、自分で変えていく。

「傾聴する人」が、「真のよりどころとなる他者」となり得る可能性が有る。


■(藤井の意見)聴くことで、真によりどころとなる他者となることは、主イエスの宿った人として、出会うということなのか。それとも、真に理解者、よりどころとなる絶対他者との出会いへと、導くことなのか。


■(藤井の意見)援助者の援助の必要性。理論と実践、反復ととともに、援助者のケア。

■(藤井の意見)援助者に対する依存の危険性はないか。


●しかし、傾聴だけでいい、ということではない。具体的な苦痛に対してちゃんと対処する。

●傾聴できないケースの紹介
肺がんから脳に転移。両耳と目が不自由になった方。こちらの思いを伝えることができなくなったときの、無力感。

奥さんのご主人へのマッサージ。ご主人の安らぎ。

方法論や手段を越えて「最後に愛は勝つ