幸せな蚊

 夜、寝ている私たち夫婦をさんざん苦しめた一匹の蚊

やっとの思いで虫取り網で捕まえ、窓から外に逃した。

つぶすと血がついたりするのがいやな私。

それを見ていた妻は一言


「お腹いっぱいになって逃がしてもらって、幸せな蚊だね」

ちょっと皮肉か?

でも「汝の敵を愛せと聖書にあるからね」とさわやかに牧師らしく応える私。

「なら、右の頬を刺されたら、左の頬も刺されてやってね」

「…」


 こんな会話がかわされていることなど知りもせず、今頃あの幸せな蚊は悠々と空を飛んでいるのだろう。