近代化のために宗教を作りだした国

 明治政府は、岩倉使節団を欧米に送り、不平等条約の改定を願うわけですが、アメリカからその条件として、日本が資本主義国にならなければならないとされました。しかし、まだ江戸時代の身分制度を引きずっていた明治の日本に、資本主義の前提である、すべての人間は平等であるという近代デモクラシーを持ち込むことは不可能に近いものがありました。

 ヨーロッパにおいて近代デモクラシーが生まれたのは、キリスト教によるものでありました。神はすべてを超越した存在であり、その神のまえに、王様も貧乏人も同じ人間であると「神の前の平等」がやがて「法の前の平等」という近代デモクラシーを生んでいきました。

 そして、なんと明治政府は、この「神の前の平等」を実現すべく、天皇を現人神にする「天皇の前の平等」というアイデアを実行に移すのであります。天皇キリスト教の神と同じ立場におき、現人神である天皇からみれば、すべての日本人は平等であるという観念を普及させることによって、日本人に近代精神を植え付け、資本主義を実現しようとしました。そして、その試みは見事成功し、人々は自分を天皇の赤子と考えるようになり、どんな貧しいものでも、学問と努力さえあれば、出世することが出来るのだ、天皇から見れば私たちはみな同じ人間なのだから、と、そのような考え方になっていったのであります。根強い伝統主義、身分制度のを払拭するために、明治政府はキリスト教の代替物として、天皇教という宗教を作り出した。近代化のために宗教を作った希有な国。それが日本なのであります