「平和憲法」が日本だけというのは幻想

 学校で確か、憲法9条の規定は世界に誇るべきものであると、教わった気がします。しかし、実は、戦争の放棄や武力行使の禁止を定めた憲法は、日本だけではありません。
 憲法学者西修氏によれば、戦争の放棄を定めた最初の憲法は1791年に作られたフランス憲法だということです。そこには征服戦争の放棄や、他国民に対する武力行使の禁止が定められています。それ以後も、1891年のブラジル憲法、1911年のポルトガル憲法、などなど、何らかの平和主義的条項が憲法に記されている国は、1998年時点で124カ国あります(平和主義条項といっても様々なレベルがあるが)。アンゴラやモンゴルなどは「外国の軍事基地を設置しない」という趣旨の決まりもあって、日本は米軍基地が置かれているのですから、その点、日本より上をいっています。
 憲法9条第一項のお手本となったのは、1928年に結ばれた「ケロッグ=ブリアン条約」で、またの名を不戦条約とも言われます。9条はこの条約を引き写したものです。
 第一次世界大戦後、いわゆる平和主義が台頭します。1920年世界平和の実現のため国際連盟が作られ、1924年に「すべての侵略戦争は犯罪である」と前文にしるされた「ジュネーブ議定書」が採択され、1925年にはスイスのロカルノロカルノ条約が結ばれ、ヨーロッパでの戦争勃発を防ぐ試みが行われます。
 この流れの総決算が、フランス外相ブリアンとアメリ国務長官ケロッグが提唱した「ケロッグ=ブリアン条約」です。この条約で「国際紛争解決の手段としての戦争」「国策遂行のために戦争」が違法とされました。この不戦条約は、当時、日本を含め、世界中ほとんどの国が批准しました。が、各国すんなり批准したわけではなく、もめました。特に条約提案国のアメリカで問題になったのは「果たして不戦条約は自衛戦争まで禁じているのか」という点でした。上院で不戦条約の批准について審議が行われたとき、提案者のケロッグ国務長官を証人として招き、その真意を質したとき、ケロッグは「自衛戦争は対象外です」と明確に答え、これを聞いて、上院は納得し、このケロッグ=ブリアン条約を批准したといういきさつがあります。(小室直樹 痛快憲法学より)
 そして、日本国憲法9条はこの「ケロッグ=ブリアン条約」のコピーですから、9条もこの条約の解釈に基づくと考えるなら、9条が放棄する「戦争」に、自衛権は含まれないと解釈するのが理の当然となります。
 現在、日本と同じように「国際紛争解決の手段としての戦争」を回避すると憲法に記している国々には、アゼルバイジャンエクアドルハンガリー、イタリア、ウズベキスタンカザフスタン、フィリピンなどがあります。みんな、「ケロッグ=ブリアン条約」がお手本です。そして、自衛権まで放棄している国はどこにもありません。