過去の正体

 自分を責めていたり、人を責めている人の話を聞いていると、その多くが、過去の出来事に心縛られ、繰り返しそのことを思い出しては、否定的な感情を味わうことで苦しんでいるように思います。

 また、未来についても、過去の体験から想像するので、どうしても否定的に考えてしまいやすいのです。

 しかし過去の積み重ねの先に、未来がやってくるのではありません。

 時間は、川の流れのように、上流である「未来」から流れてきて、「今」となり、すぐに下流である「過去」へと流れ去っていきます。

 「過去」は、どんどん遠ざかっていくだけで、二度とやってくることはありません。

実は、「過去」とは記憶の中にしかないのです。

そして、人は過去に体験した危険な出来事を、特に記憶するようにできています。

それは昔、危険な野生動物と遭遇するような環境を生きていた人間にとって、過去の危険な体験を記憶することが、命の危険から身を守るために必要だったからです。

 しかし今、そのような危険な状況を生きていない現代人が、ネガティブな過去を過剰に記憶しつづけるなら、むしろその記憶によって、自分自身を苦しめていくことになります。

 脳の機能からすると、嬉しいこと、楽しいこと、誇らしいことなどの、よい感情は、記憶に残りにくいので、

むしろ意識して、今まで体験してきた、よい出来事を思い出し、記念し、心の中でそのよい感情を、思い起こして味わうことが、心の健康にとって大切です。

いずれにしろ、その人にとって「過去」の正体は、記憶なのです。